最近は”障害”という言葉はネガティブなイメージを与えるとか、差別的などの理由で、”発達障害”ではなくて、”神経発達症”と呼ぶらしいです
神経発達症とは?
神経発達症は、DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアルで採用された用語で、知的能力障害、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
発達障害者支援法
そして、僕は小児科医なので外来で、"発達障害"(神経発達症)、発達凸凹、グレーゾーンの子供達の子育て/育児で毎日頑張っているお父さん、お母さんをたくさんみてきました。
そして、僕も二人の子供を育てる父親でもあります。言わば、”育ての同志”であり、”業の同業者”でもあります。実は僕はADHDの傾向があり、それは子供達にも見事に引き継がれています。ですので、子育ての実体験にNLP(神経言語プログラミング)/コーチングの要素をちょい足しして、子供達やお父さん、お母さんとお話しをしています。
今日は小児消化器医×NLPトレーナー×父親としての視点からお話しさせて頂きます。 ただし、僕は小児神経科医でも、児童精神科医でもないのであくまで、小児消化器医×NLPトレーナー×父親の視点からということをご理解ください。
”発達障害”は天才性の宝石箱やぁ~!
― 気持ちが楽になる発達障害/グレーゾーン/発達凸凹の子育て思考法 ―
目次
なぜそんな行動するの?を知って、ゆる~り子育て
発達障害は食事が原因!? 本当かウソか
他の子は出来るのに何でうちの子はできないの?日常生活のあれこれ
「自分と同じ思いをさせたくない」という愛情がイライラの原因かも
テクニックよりも、愛情よりも、子供達に必要なこと
アフリカのサバンナで暮らしたら”発達障害”ではない!?
『失敗から学べ』は正しい育て方か?
”ちゃんと”って何?
子供に呪いがかかる!?”ヘリコプター・ペアレント/カーリング育児”とは
”発達障害”という才能 ―世界のリーダーは発達障害だらけ
1.なぜそんな行動するの?を知って、ゆる~り子育て
かんしゃく、パニックはなぜ起こすの?
―自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)―
まず最初に伝えたいことは、神経発達症(発達障害)の人は、行動パターンが多くの人と異なる場合がありますが、その理由は脳の働きに特性があるからで、本人の努力不足や親のしつけは原因ではありません。あなたの育て方が悪かったわけではないし、お子さんがわがままなわけではありません。
ただし、残念なことに日本ではまだ神経発達症(発達障害)に対する理解が低く、「しつけが悪い」、「本人の努力が足りない」という言葉で、お父さん/お母さんや本人を傷つけるような言葉を投げかけられることはあると思います。
そのようなときは、相手を不快にさせたことは謝罪して、「みんなこの子の天才性に気づいていないだけ、この子の天才性の宝石箱に気づいているのは私だけ」と心の中で唱えて、相手の言葉はスルーしましょう。
”相手の世界観を尊重”して、声にならない子供のSOSを見つけよう
私達は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を通して情報を脳に送っています。その情報量は毎秒1100万ビットともそれ以上とも言われています。YoutubeのHD画質モード、つまり高画質モードが毎秒約200万ビットですので、毎秒1100万ビットはYoutube動画5.5本分を同時に見ているくらいの情報量です。そんな情報が頭に入ってくると脳がパンクしてしまうので、フィルターをかけて毎秒126ビットに絞り込んでいると言われています。このフィルターは人それぞれで受け取る毎秒126ビットの情報もひとそれぞれです。
ですので、例えば目の前にこんな人がいたとします。
ある人は、毎秒126ビットの情報を受け取った結果、「私を睨みつけている」⇨「怖い」と感じます。
しかし、別の人は毎秒126ビットの情報を受け取った結果、「私を笑わそうとしてる」⇨「面白い」と感じます。
どのような毎秒126ビットの情報を受け取って、どのように世界を見ているかというのが、その人の”世界観”であるとNLPでは考えます。
世界観は人それぞれです。とは言え、同じような文化や生活習慣の中で暮らしているとある程度似たような世界観を持つことができます。だから、私たちは”空気を読む”ことが出来るのです。しかし、神経発達症(発達障害)/発達凸凹/グレーゾーンと呼ばれる人たちの中には、似ていない世界観を持っています。そして、彼らは彼女らは”空気を読む”ことが苦手だったりします。だから、周りに合わせることが苦手だったり、周りから理解されずに”変わった人”認定されて、苦しい思いをしたりします。
一方で、ゴッホや山下清のように自閉スペクトラム症の人がきれいな色遣いで独特の世界観を絵画で表現します。これは彼らの世界観が私達とは違うからであり、これこそ発達障害の人が持っている天才性の宝石箱です。
相手の世界観を尊重するということは、良好なコミュニケーションを取る上での大原則なのですが、私たちは、ついつい自分の世界観を他人に押し付けがちです。神経発達症(発達障害)/発達凸凹/グレーゾーンの子供と接するときにも、その子の世界観を尊重する必要があります。
私達にとっては大したことがじゃなくても、その子にとっては重大なことがあるのです。ただ、私達の世界観とは違うから私達が気づきにくいだけ。例えば、音が大きかった・強かった、聞き慣れない音がした、ある物がいつもと違う場所にあったなど、私達にとっては大したことがなくても、その子にとっては重大なことがあるのです。
そして、神経発達症(発達障害)/発達凸凹/グレーゾーンの子供は言葉で自分の感情や気持ちを表現することが苦手な子が多いのです。だから、パニックやかんしゃく、大声を出すという方法でしかSOSを出せないのです。パニックやかんしゃく、大声を出すというのは、その子にとってできる最大限の『SOSの表現』なのです。
NLPの前提にはこんなものがあります。”NLPの前提”とはNLPの基本的な考え方です。
人は、持てる限りのリソースを使って最善を尽くしている。
リソース (resource) とは、資源という意味ですが、”役に立つ”物・事・能力など”と考えてください。パニックやかんしゃく、大声を出すというのは、神経発達症(発達障害)/発達凸凹/グレーゾーンの子の持てる限りのリソースを使った最善を尽くした結果なのです。
神経発達症(発達障害)の子のパニックやかんしゃくへの対処法
まずは、子供を少し静かな場所に連れていき、できるだけ刺激を減らしましょう。そして、落ち着くことができるようにしてあげることが大切です。そして、客観的にその子が不快に感じていること、もの、状況を探しましょう。 実際に目の前で子供がパニック、かんしゃくを起こしていると、イライラしたり、これが一生続くのではないかと不安になったり、悲しくなったりすることもあると思います。実際に保育園の登園前にパニック、かんしゃくを起こして、保育園を休ませることになり、自分も仕事を休まざるを得なくなった方もいるかもしれません。
夫の協力がえられず、ワンオペ育児をしているお母さんたちは、なおさら、イライラ、不安、悲しみが大きくなるでしょう。 しかし、こんな時こそ、お父さん、お母さんは、大きく深呼吸をして呼吸を整え、体をゆすったりしながら体の力を抜いてリラックスして、客観的に状況を見るようにしましょう。
お父さん、お母さんのイライラ、不安、悲しみは子供に伝わり、子供のパニック、かんしゃくはさらにひどくなることがあります。
NLPにはアソシエイト、ディソシエイトという考え方があります。
状況に入り込み、感情的になり、主観的にしかものごとをみれない状態がアソシエイト。
反対に、その状況から一歩ひいて、感情から抜け出して、客観的にものごとを見ている状態がディソシエイト。
子供がパニック、かんしゃくを起こしたときは、まずはお父さん、お母さんは、ディソシエイトの状態になり、客観的に状態をみるようにしましょう。そのためには、深呼吸、リラックスです。
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2.発達障害は食事が原因!? 本当かウソか
神経発達症(発達障害)の子は食事へのこだわりも強く、極端な偏食も
結論から先に言うと、ウソです。科学的根拠がありません。
私の食事が悪かったのか?妊娠中食べたものが悪かったのか?と自分を責めるお母さんがおられますが、ニセ情報に惑わされないようにしましょう。
発達障害の子は食事へのこだわりも強く、「○○しか食べない」ということが良くあります。お母さんが愛情をこめてつくった食事を食べてくれないと悲しくなると思います。一部の本やネット情報では、「発達障害は食事で良くなる」、「大量の糖質、小麦製品、悪い油、乳製品がよくない」といっています。それを信じて、一生懸命、食事をつくるけど、食べてくれなくて、イライラ、悲しみ、不安、これが子供に伝わって、子供も頑固になり、食べてくれない。こんな悪循環に陥っているお母さんもいます。間違った情報を信じたお母さんが極端にかたよった食事を子供に提供して、子供が栄養失調になってしまうこともあります。
食事への極端なこだわりと偏食のために、鉄分不足、ビタミン不足、カルシウムなどのミネラル不足、低血糖になどになっている場合には、それを補うような食事やサプリを与えることで、鉄分不足、ビタミン不足、カルシウムなどのミネラル不足、低血糖などからくる症状が改善するため、一見すると神経発達症(発達障害)が良くなったと勘違いされるお母さん、お父さんもおられます。そして、それを「発達障害は食事で良くなる」と宣伝する人達がいます。惑わされないように注意しましょう。
食事への極端なこだわりも”世界観”からきている
触感や味、におい、色や形、食べ物から出る音など、その子なりに受け取った毎秒126ビットがあります。それによって食べものの好き嫌いも生まれます。
もしかしたら、過去の経験と食べ物が紐づいているかもしれません。うちの母は、鶏肉を食べませんでした。子供の頃にニワトリをしめているのを見てから食べられなくなったそうです。僕自身は、魚屋で買った魚はたべられましたが、自分で釣った魚は生きているときの魚が動いている様子や東京湾の汚い海を連想して食べられませんでした。
食事へのこだわりも、子供の世界観から来ています。ですので、私達にとっては大したことなくても、その子にとっては重大なことは何かに気づいてあげることで、調理法や食材、盛り付け等を工夫するヒントになります。
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3.他の子は出来るのに何でうちの子はできないの?日常生活のあれこれ
食器を使えない、トイレットトレーニングが進まない
神経発達症(発達障害)の子は日常生活の中での基本的な動作の獲得も遅れがちです。遅れがちといっても、一生できないわけではありません。まわりの子たちとくらべて、遅いだけです。
例えば、食事のときにスプーンやフォークなどの食器が使えない。トイレでの排泄ができず、いつまでたってもオムツがはずれない。とくにトイレに関しては、神経発達症(発達障害)の子は、排便に関心がなかったり、他の遊びに集中すると排便に意識が向かなくなる、家以外のトイレでは絶対にうんちをしたがらないことなどが原因で便秘になりやすい傾向があります。
基本はその子のペースでの成長を待つ
自分の子が、まわりの子と比べて成長が遅いと、ついついイライラしたり、悲しくなったり、ずっとこのままではないかと不安になったりします。
僕の外来には、便秘でトイレットトレーニングが遅れている子がたくさんやってきます。お姑さんや幼稚園・保育園の先生から「あなたのしつけが悪い」と直接的もしくは間接的に言われて、落ち込んでこられるお母さんもいます。もちろん、「しつけが悪い」からトイレットトレーニングが遅れているわけではありません。
「大丈夫だよ、お母さん。この子のペースでできるようになるのを待ちましょう。一生おむつでうんちする子はいないから。」と僕が話すと、涙を流されるお母さんもいます。
行動する”きっかけ”をつくってあげる
「待ちましょう」と言われても、何かできることはないのか?と考えますよね。
例えば、トイレットトレーニングで言うと、トイレに行きたくなるようなきっかけをつくってあげることが大切です。以前、Twitterの記事で見たのですが、トイレまでの廊下に紙を切り抜いた足跡を張り付けて、それをたどっていくと自然とトイレに入るようになったそうです。
トイレでうんちができたら、お気に入りのキャラクターのシールを張れるようにしたり、お気に入りの絵やポスターを飾ってデコレーションしたり、お気に入りのキャラクターのパンツを買ってあげたり
その子がオムツじゃなくてパンツをはきたくなるような、トイレでうんちをしたがるようなきっかけを作ってあげることが大切です。
手づかみ食べを卒業して、スプーンやフォークで食べられるようにしたいなら、スプーンやフォークは必ずテーブルの上に用意するようにしましょう。「どうせ使わないから」と準備するのをやめてしまうと、スプーンやフォークで食べるきっかけすらなくなってしまいます。そして、実際に親が食べているところを見せてあげることも大切です。
やってみて、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ
私が講演でトイレットトレーニングについてお話をするときに必ず紹介する話があります。それは大日本帝国海軍 山本五十六元帥の言葉です。
「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」
この言葉はビジネスの世界で人材育成やマネジメントのコツとして紹介されることがあります。しかし、これは子育てにも当てはまります。
まず、親が実践してみせる、そして、やり方を教えて、どうしてそうして欲しいのかを理由を伝えて、最後に出来たら褒めてあげる。大げさなくらいに褒めてあげてください。
褒めるコツその1 25%ルール
100点満点を求めると、褒められなくなります。大人が期待するところの25%出来たらできた部分を褒めてあげましょう。それが子供の自信へとつながります。
褒めるコツその2 小さなことからコツコツと―スモールステップ―
例えば、トイレで便器に座ってうんちをすることを最終ゴールだとすると、中間ゴールをたくさん作っていきます。
例)トイレに入ることができる→トイレで便座にすわることができる→パンツをおろしてすわることができる→いきむことができる→便器でうんちができる
そして、もちろんそれぞれの中間ゴールを25%ルールで褒めてあげます。
スプーンやフォークでご飯をたべるだったら、自分でスプーンとフォークを並べるを中間ゴールにしても良いし、手に持つだけを中間ゴールにしてもかまいません。触るだけでもよいかもしれません。
とにかく、ハードルを下げて、25%ルールで褒めまくります
褒めるコツその3 ”I(私)”メッセージで気持ちを伝える
人間は本能的に”誰かの役に立ちたい”という本能があります。そして、誰かに貢献できたことで人間のセルフイメージは上がります。セルフイメージとは、自己受容、自己信頼、自己尊重からなりたっています。誰かに貢献できたと感じることで、自分は価値ある存在なんだと思えるようになります。
だから、「○○が~してくれて、お母さん(お父さん)、助かったわ」、「○○が~してくれて、お母さん(お父さん)、うれしいな」と子供に言葉にして伝えてあげましょう。
自分がだれかに貢献できていると思うと、子供はその行動を繰り返すようになります。
褒めるコツその4 ”見える化”で褒める機会を増やす
神経発達症(発達障害)の子は、見通しが立たないことが苦手です。やらなければいけないことを絵や文字で”見える化”してあげることで、次の行動の見通しが立ちます。
例えば、テーブルのところに歯ブラシの絵を張っておいて、ご飯のあとは歯磨きをするように誘導してあげるのも良いでしょう。
幼稚園/保育園、学校の準備に時間がかかる子は、表にして順番を絵でわかりやすくまとめてあげるのも良いかもしれません。耳からの情報に敏感な子は、歌をつくって歌うのも良いかもしれません。
こういった工夫をしてあげることで、子供も行動しやすくなり、親も褒める機会が増えてきます。
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4.「自分と同じ思いをさせたくない」という愛情がイライラの原因かも
― 親も神経発達症(発達障害)/発達凸凹/グレーゾーン ―
ついついきつく叱ってしまうのも愛情から
親の発達障害/発達凸凹/グレーゾーンは遺伝する?
最初に僕はADHDの傾向があって、子供達にもそれが引き継がれていると書きました。医療機関で診断はされていないけれども、親自身も神経発達症(発達障害)の子と同じような特性をもっていることが多いのです。神経発達症(発達障害)について、黒だとも白だとも言えないので、”グレーゾーン”と表現されることもあります。
神経発達症(発達障害)の子と同じような特性をもっている親は、自分が子供の頃、もしくは今、現在も生きづらさを感じていることがあります。自分がいじられキャラで、みんなが”普通”にできることが普通にできないために自信を失ってきたという経験を持っている人が少なくありません。
そして、そんな思いを子供にもさせたくないという思いから、ついつい子供に対してきつい口調や厳しい態度をとってしまうことがあります。これは子供が憎いからではなくて、子供に対する愛情から出た行動です。だからこそ、きつい口調や厳しい態度をとってしまったあとに、親が自分自身を責めてしまうこともあるのです。
僕自身も、かつてはそうでした。ADHD傾向のある僕は衝動性が抑えられず、すぐに泣き出したり、感情がコントロールできずに友達に手を挙げてしまったり、やってはいけないと言われていることを我慢できずにやってしまったりする子でした。すぐに泣くので学校の先生からも”弱虫つよし”と呼ばれ、友達からもいじめられました。そして、僕の息子も同じように、すぐに泣き出したり衝動性が抑えられず、すぐに泣き出したり、感情がコントロールできずにケンカをはじめたり、やってはいけないと言われていることを我慢できずにやってしまったりする子でした。そんな息子を見ると自分自身の小さい頃を見ているようで余計にイライラして、「泣くな!」と怒鳴りつけていました。
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5.テクニックよりも、愛情よりも、子供達に必要なこと
― ありのままの自分と子供を受け入れること ―
子供だって誰かにコントロールされたくない
子育てテクニックよりも大切なこと
僕自身は息子がピーピー泣くのを見て、イライラして「泣くな!」と怒鳴りつけてしまうのが自分の子供時代が原因だとは考えてもいませんでした。
NLPやコーチングを学び始めた理由の一つに、息子を何とかしたいというのもありました。NLPやコーチングのテクニックを使えば、何とかなるだろうくらいに考えていました。
今から考えると、何ともバカげた考え方なのですが、当時は真剣にそう信じていました。
実際に神経発達症(発達障害)があるこの子育ては「愛情よりもテクニック」と断言している方もいます。今の僕は「愛情よりもテクニック」という考え方には賛成できません。
嫌がって部屋のすみに隠れている子を無理矢理に腕をつかんで、引っ張り出そうとしてもまたすぐに同じ場所に逃げて戻ろうとします。成長すればするほど、力も強くなりますから引っ張り出すこと自体が難しくなります。
無理矢理、テクニックで子供を変えようとしたり、親の思った通りに操作しようとしてもうまくいくはずないのです。自分自身がだれかに操作されているなと気づいて、その人の言うとおりに操作されますか?絶対にしないと思います。子供と親の関係だって同じことです。
僕はこのことに気づくのにNLPとコーチングを学び始めてから3年かかりました。
『子供の”世界観”を尊重する』... からの信頼関係(ラポール)
何よりも大切なことは子供の”世界観”を尊重することです。
善悪の判断をせずに、子供の"世界観"を受け入れてあげることです。
理解をする必要はありません。ただ、「そういう”世界観”をこの子はもっているんだな」と認めてあげるだけです。その子が受け取った毎秒126ビットの世界を認めてあげることです。
相手の世界観を認めてあげることで、子供との信頼関係が初めて生まれます。
NLPでは心と心に橋がかかった状態をラポールと呼びます。心と心に橋がかかった状態だからこそ、信頼関係が生まれて、NLPやコーチングなどのテクニックも生きてくるのです。 ”信頼”とは「信じて、頼る」と書きます。心と心に橋がかかって、相手のことを信じているからこそ、相手が使うテクニックに頼ることができるのです。
これは親子といえども、同じです。親と子のお互いの心に橋がかかっていなければ、テクニックは意味がありません。
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6.アフリカのサバンナで暮らしたら”発達障害”ではない!?
特性に合った環境が設定されないから”生きづらい”
僕が外来で神経発達症(発達障害)について親御さんにお話しするときによく話をするのですが、「発達障害かどうかというのは、あくまで日本の社会の中で、周りの人たちと比べてどうかということ。誰もいないアフリカのサバンナで暮らしていて、サバンナの生活に適応できていれば、同じような特性をもっていても発達障害ではない。」
つまり、まわりの人と比べて、特性が違うために社会生活に適合しづらいから、”障害”となるわけです。そして、その特性を”障害”とみるか、それとも”天才性”とみるのかは社会であり、本人であり、親なわけです。
”生きずらさ”が生む二次障害とは ―うつ、不登校、ひきこもり―
発達障害の子は、小学校高学年以後、孤立やいじめの被害にあう可能性が高くなってきます。その結果、それまでの「発達障害」そのものに加えて、不安症やうつ病などの精神疾患が合併することになり、学校への適応がますます困難となります。これを「二次障害」と呼びます。学校が子供にとって唯一の社会になってしまっていると、子供は逃げ場がなくなります。自分が安心して安全に過ごせる場所がなくなってしまいます。これが不登校ひきこもりにつながる例の少なくありません。
だからこそ、子供の特性にあった環境を設定してあげる必要があるのです。
子供が”楽になれる”声かけの3つのコツ
その1 できないことより、できていることに目を向けてみる
人間はどうしても、欠けているところに目がいきがちです。できていることよりも、ついつい、できていないことに目が行ってしまいます。すると、ついつい否定から入ることになります。親から子へ否定を、子供は自分自身に否定をするようになります。すると、自己否定→自己不信→自己卑下と子供のセルフイメージはどんどん下がっていきます。
できないことより、できていることに目を向けてみることです。そして、できた子を「よくんできたね」とほめてあげてください。できた子を「あなたは本当に私の宝物だよ」と認めてあげてください。できた子を「よくがんばったね」ねぎらってあげてください。
子供のできているところよりも、ついつい、できていないことを注意してしまった、叱ってしまった...
そんなときも大丈夫、自分のできたところをほめてあげてください、みとめてあげてください、ねぎらってあげてください。
その2 やってほしいことを伝える
そして、やってはいけないことではなくて、やってよいこと、やって欲しいことを伝えることです。
例)廊下を走ってはいけません → 廊下はゆっくりと歩いてください
「あれはダメ、これはダメ」だと、何をやったらいいのかが伝わりません。とくに神経発達症(発達障害)の子は混乱してしまいますし、禁止ばかりで息苦しくなってきます。 例えば、子供が夢中になってクレヨンで絵を描いていると、ついつい紙からはみ出して、床やフローリングにまで絵をかいてしまうことがあります。そんなときに「床にクレヨンで絵を描いてはダメ!」と注意するのではなくて、「レジャーシートをしいて、その上でお絵描きをしなさい」と伝えます。 レジャーシートなら簡単に拭けるし、なんなら、100円均一ショップなどですぐに買い替えられます。 その3 スケールを使って具体化する スケールを使うのも良い方法です。自閉スペクトラム症やADHDの子は声は状況に応じた声の大きさで話すことが苦手なことがあります。ですので、周囲の人から「うるさい!」と言われることもしばしばです。しかし、「うるさい!」だけでは、どうしがらよいのか理解できないのが神経発達症(発達障害)の子の特性です。 ですので、「遠くにいる人を呼ぶのが4、キッチンからテレビの前まで聞こえる声が3、おとなりにいれば聞こえる声が2,内緒話は1、黙っているのがゼロ」のように具体的なスケールをつくり、「今はおとなりにいるから、2の大きさの声で大丈夫だよ」のように伝えるようにします。
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7.『失敗から学べ』は正しい育て方か?
「失敗してもよい」という前提が必要
「失敗は成功の元」という言葉があります。僕が躰道(たいどう)という武道を教えている道場では子供達にたくさん失敗させて、失敗から学ぶことを教えています。躰道では技が決まるまでに、思考→判断→方法→結果→反省、の手順を踏むと教えています。そして、技がきまらない(=失敗)ならば、どうして決まらなかったのかを反省して、どうやったら決まるかを考えて、次はどのように攻めるかを決めて、実際にその方法を実行してみます。技が当たったらどうして当たったのか、当たらなければどうして当たらなかったのかを思考するというサイクルを繰り返しながら技を発展させると教えています。 一方で、他のスポーツ指導者や武道指導者の中には、子供達の失敗を叱りとばして、大声で責め立てる人もいます。これでは失敗から学べません。
失敗から学ぶには「失敗しても、反省して新たな方法へつながればよい」という前提が必要なのです。
発達障害(神経発達症)、発達凸凹がある子が、ひとりで失敗から学ぶことは難しい
発達障害(神経発達症)や発達凸凹があると、その行動を理解してもらえず、「どうしてそんなことやったの!」のように、どうしても怒られることが多くなります。怒られることで、自己否定→自己不信→自己卑下とセルフイメージが下がっていることが多いのです。 発達障害(神経発達症)や発達凸凹の子の”世界観”が、周囲の人の”世界観”から受け入れられないために、このように怒られる機会が増えているわけです。だから、発達障害(神経発達症)や発達凸凹の子が、ひとりで失敗から学ぶことは難しいのです。
それよりも、本人が楽しくできたときの「できた、やった!」という小さな成功体験を積ませてあげることが、成長・発達のもとになるのです。失敗よりも成功に学ぶことが大切です。
うまくいったときにはたくさん褒めてあげて、「どうしてうまくできたとおもう?」と聞いてみてもよいでしょう。反省は必ずしもネガティブなことだけではありません。成功からも「反省→思考→判断→方法→結果」のサイクルを回していけます。
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8.”ちゃんと”って何?
― 発達障害/発達凸凹の子は
”ちゃんと”がわからなくてつらい、
親は”ちゃんと”がつたわらなくつらい ―
ADHD傾向のある僕が父親になって誓ったこと
娘が生まれて、僕が父親になったときに誓ったことの一つに『”ちゃんと”という言葉は使わないようにしよう』というのがあります。超がつくほどの問題児だった僕は、子の頃から学校で「”ちゃんと”しなさい!!」とよく叱られました。学校の先生がいう”ちゃんと”の意味を理解できたのは高校卒業するあたりだったかもしれません。もしかしたら、僕が考える”ちゃんと”は学校の先生が求めていた”ちゃんと”とは違うかもしれません。
それくらい、「”ちゃんと”やれ!」と言われても、子供の頃の僕は何をしていいかわからなかったのです。”ちゃんと”やっているつもりなのに、「”ちゃんと”しなさい!」と怒られるから、さらに混乱しました。
具体性をもって、やってほしいことを伝える
発達障害/発達凸凹の子は”ちゃんと”がわからなくてつらい、親は”ちゃんと”がつたわらなくつらい、これでは誰も幸せにはなりません。”空気が読めない”、”あいまいな表現を理解するのが苦手”な発達障害/発達凸凹の子には、より具体性をもって、やってほしいことを伝える必要があります。 例)「”ちゃんと”イスにすわりなさい!」 → 「背筋を伸ばして、イスに深く腰かけて、前を向いて、先生を見て、先生の話を聞きなさい。」
ここまで言わなくちゃダメ?と思われるかもしれませんが、やってほしいことをできるだけ具体化しないと伝わりません。
当たり前のことができない
発達障害/発達凸凹の子は当たり前のことができません。それができないから”生きづらさ”を感じて、セルフイメージが下がっていくのです。
「とりあえずやっておいて」と言われても、何をしてよいのかわからなくなります。だから、どうしてそれをやるのかの理由とその背景を理解できるように説明してあげる必要があります。そして、長い文章を読むのが苦手な子には、イラストを使ったりしてわかりやすく伝える工夫も必要です。また、難しいことを簡単にできるようになるグッズがあるのであれば活用するのも良いでしょう。
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9.子供に呪いがかかる!?”ヘリコプター・ペアレント/カーリング育児”とは
過保護と過干渉の違いとは?
当たり前のことが、当たり前にできないわが子をみると、ついつい手や口を出してしまうのも親の愛情です。それ自体は責めるべきことではないですし、大切なことだと僕は考えます。
『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』の著者である加藤紀子さんは、その著書の中で、”過保護”と”過干渉”を明確に分けています。
過保護とは『子供が望んでいることをたくさんやってあげること』であり、過干渉とは『子どもが望んでもいないこと、むしろ嫌がっていることをやりすぎること』です。
親が先回りしすぎると、子供の人生に呪いをかけて、天才性に蓋をしてしま」
親が子供が失敗しないようにと、「○○してはいけない」、「危ないことをしてはいけない」とあまりにも先回りしてしまうと、子供が挑戦する機会を奪ってしまいます。失敗を必要以上に避けるようになると(過剰忌避)、子供が挑戦する気持ちすら奪ってしまいます。
自分で限界をつくって、世界に上限を作って、子供の天才性を磨く機会も、天才性を発揮する機会も蓋をしてしまうようになります。子供の頃に親が先回りしすぎることで、子供の人生の呪いとなって、天才性に蓋をしてしまうのです。
ヘリコプター・ペアレント/カーリング育児とは?
「ヘリコプターペアレント」とは、ヘリコプターがホバリングするように子供を見張り、必要以上に関わり続ける親のことです。
「カーリング育児」とは、カーリングでストーンの通り道を先回りしてブラシでこすりながらならしてしまうように、子供が進む道を鳴らしてしまう親のことです。
「子供が傷つかないようにしたい」という親の愛情から、子供のやることに必要以上に口を出したり、行動を制限したりして、子供を困難なことや失敗を遠ざけて子供を守ろうとしているのです。子供が自主的に行動したり、決断したり、考えたりすることや、失敗したり間違えたりしたときに、乗り越えようと挑戦する経験を奪うことになります。
その結果、常に人を頼らなければ行動できなくなる、他者依存的な生き方をするようになります。親のサポートなしでは生きていけない、依存体質の大人になってしまいます。 ある調査によるとヘリコプター・ペアレントに育てられた大学生はうつ病になりやすいという結果があります。
人間には、適度な失敗や挫折は必要であり、それが心と体を強くする”ワクチン”のように働きます。ワクチンで失敗や挫折に対する”抗体”ができると、ちょっとやそっとではへこたれない、”なやかな強さ”=レジリエンスが育ってきます。
自立とは「上手に他人に頼ること」
外来で、あるお母さんから質問されたことがあります。
「自立ってなんでしょうか?」
僕の答えは
「上手に甘えられることではないでしょうか」
でした。”上手に甘える”とは、自分で考えて、判断して行動する力を持ったうえで、自分だけではどうしても解決できないことは、自分から「助けてください」とお願いできることです。
そして、大切なことは子供と親の心と心に橋がかかった状態=ラポールをつくりながら、親は見守り、子供が本当に困ったときには頼るところがあるという安心感を与えてあげることが大切なのではないでしょうか。
そんな自立した大人に育てることが子育ての究極の目標ではないでしょうか。
―――目次にもどる―――
10.”発達障害”という才能 ―世界のリーダーは発達障害だらけ
”過剰集中”、”マインド・ワンダリング”、”衝動性”という才能
過剰集中/過集中とは
発達障害のある人の中には、注意の散漫さがある一方で、短期的にものすごい集中力を発揮したり、自分の興味関心が強い特定の物事に時間を忘れるほど没頭したりといった特性を持っている人がいる。
マインド・ワンダリングとは
台湾でコロナウィルス感染制御の陣頭指揮をとったオードリー・タン氏、電気自動車のテスラや宇宙開発企業スペースX社を立ち上げて世界一の大富豪となったイーロン・マスク氏、楽天グループ創業者 三木谷浩史氏、そして、”発明王”トーマス・エジソンもみんな同じ特性をもっていたと『発達障害という才能』の著者 岩波明さんは述べています。
彼らに共通する特徴とは、”過剰集中”、”マインド・ワンダリング”、”衝動性”であり、これは自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥多動性障害/注意欠如・多動症(ADHD)の人のもつ特性です。
一つのことに集中するとほかのことに意識が向かなくなる過剰集中は、発達障害(神経発達症)の人のもつ”障害”の一つとされているが、この集中力がときに驚異的な能力の発揮につながる。何かあたらしいものを創造するような人たちには、過剰集中が必要不可欠な能力であったりする。
”マインド・ワンダリング”も、”心ここにあらず”で一つのことに注意を向けられないADHDの人の”障害”ととらえられがちだが、いろいろなところに興味関心が向く好奇心や発想力、マルチタスクといった天才性にもつながる特性である。
”衝動性”も、あとさき考えずに行動する、感情に任せて行動するADHDの人の”障害”ともとらえられがちであるが、人並外れた行動力にも直結する特性である。
まさに、発達障害は天才性の宝石箱なのです。
子供の天才性を伸ばすには
自分に天才性=特性をはっきりと認識し、それをうまく活用できた子が、科学の世界、芸実の世界、あるいは実業界で成功を収めるのです。しかし、残念ながら、今の日本の教育はその逆のことが行われています。才能のある子に対して、発達障害という天才性をもっと子に対して、日本ではしきたりや常識、”空気”に従うことを求めてきます。言葉は悪いですが、格安の量産品をつくるような教育がなされています。
そのような社会の中で、発達障害という天才性を持った子は生きづらさを感じて、セルフイメージを下げ、挑戦する気持ちを失っていきます。
では、発達障害という天才性を持った子のために親は何ができるのか?
僕は子供の世界観を認めて、心と心に橋がかかったラポールを作り出すことが基本だと考えます。そして、子供がSOSを出したときには、子供がしてほしいヘルプをしてあげることだと思います。
楽天グループの三木谷浩史氏は子供のころ、エリートぞろいの家族の中で落ちこぼれてきな存在だったそうです。三木谷氏は、興味があることには一心不乱に努力するが、関心のないことはまったくやらないという特性をもった子供だったそうです。しかし、三木谷氏の両親は、そんな三木谷氏の特性を認め、勉強を強制することもなく、黙って見守っていたそうです。
そこには心と心の橋がかかったラポールが存在していたのではないでしょうか。
だからこそ、両親も三木谷氏を信頼して、成長を待つことができたのではないでしょうか。
最後に大日本帝国海軍 山本五十六元帥の言葉を紹介します。 さきほど、山本五十六元帥の「やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ」という有名な言葉をご紹介しましたが、実はこの言葉には続きがあることは案外知られていません。
実は以下のような言葉が続きます。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
私達、親ができることは、子供の話に耳を傾け、子供の世界観を認めてあげて、そして、子供の判断に任せてあげる、そして、子供の姿を「生まれてきてくれてありがとう」、「今日も生きていてくれてありがとう」と感謝の気持ちで見守って、心と心に橋をかけて信頼関係を築いていくことでないでしょうか。
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